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家族主義/血縁主義が濃い年末は酸素が薄くなる。先月からずっと、帰省すべきか否か悩んでいる。悩み込むと騒乱する頭で夜眠れなくなるのでここに放流する。見出し番号に意味はない。
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年末年始に家族が集う家族主義/血縁主義の規範が唾棄するほど憎かった1年目の冬は、独り過ごして夜を明かした。上京して間もないころで帰省するほどに家族との時間を久しくは空けておらず、不幸中の幸いにも帰省せぬことを許されたのだった。
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個別具体的な私の、家族/血縁に不満はない。衣食住と教育を保証された私はむしろ恵まれた側であるが、家父長制の存続に資する婚姻制度で契約された「家族」という共同体それ自体を忌み嫌っている。それゆえ円満な「家族」の表象と言説が横溢する年の瀬のころがわたしのこの世で最も嫌いな季節だった。
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わたしは「普通」の/ストレートな人生を早々に諦め、その後も望んで逸脱してきた。「隣に住んでいたらいやだ 見るのもいやだ」などと政府関係者と「世間」に疎まれつづければ、ストレートでない人生へのそうした諦観を身につけるのは容易い。
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わたしを適切でない仕方で呼ぶ家族は、すくなくとも悪い人たちではないので悪いようにはなってほしくない。「普通」のしあわせを望むなら経験させたいと思うが、わたしは「普通」に巻き込まれるのに耐えられない。わたしの真性は全霊を賭けてどうしてもその圧力に抗いたがる。
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ただ帰省するだけのことに過ぎない。シスヘテロでない/クィアのわたしが、世をたばかり家族を演じ/パフォーマンスすることが、そうできることが「家族」の表象に亀裂を入れる実践可能性のひとつだと理解している。
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蛇が心臓を別の場所へ隠すみたいに、魂までは売り渡さなければわたしはわたしのまま存える。
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それでもなお「普通」という規範の鋳型に押し込められるたび背骨の折れる音がする。
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わたしはかれらをわたしの「不幸」に巻き込むのがずっと忍びなかった。
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帰省するかに悩めるだけ贅沢な人生である。家族と絶縁しあるいはもとより家族をもたず、またつねに家族という共同体のなかで息を殺して生きている人々をわたしは数多く知っている。それらを思えば「かえりみて帰りうる場所」をもち悩めるわたしはたしかに恵まれている。
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しかしそうした人々の苦痛に同じく、わたしの苦痛もまた証言されてよいもののはずである。
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誰にも告げず地元を逃げ出しこれまでの人間関係を切断し、学歴を白紙にして見知らぬ土地で夜の仕事に就いた。地域格差も学歴主義も「家族」もなにもかもすべて疎ましく忌まわしいあまりに。
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「記憶をどこかにうまく隠せたとしても、深いところにしっかり沈めたとしても、それがもたらした歴史を消すことはできない」。沙羅は彼の目をまっすぐ見て言った。「それだけは覚えておいた方がいいわ。歴史は消すことも、作りかえることもできないの。それはあなたという存在を殺すのと同じだから。」
──村上春樹『多崎つくると彼の巡礼の年』(2015年、文春文庫、p.46)
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「家族」はどこまでも憑いてまわる。月がある夜に足元にできる影みたいに。
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「でも僕はひとつの場所に縛りつけられるのが好きじゃありません。好きなときに好きなところに行って、好きなだけものを考えられるような、自由な生き方をしたいんです」
──村上春樹『多崎つくると彼の巡礼の年』(2015年、文春文庫、p.75)
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亡霊を振り切るにはどうしたらよいだろう?
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ひどく汚れた 足の裏
怪我してるのか 少し痛いけど
どれが僕の血なのか わからないね
──青葉市子「いきのこり●ぼくら」
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「世間」の顔をした人々から逃れるには?
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(それは世間が、ゆるさない)
(世間じゃない。あなたが、ゆるさないのでしょう?)
(そんな事をすると、世間からひどいめに逢うぞ)
(世間じゃない。あなたでしょう?)
(いまに世間から葬られる)
(世間じゃない。葬むるのは、あなたでしょう?)
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数日かけて益体のないこの雑文を書き留めつづけ、疲れてきたのでここまでにする。悩みも人生も唐突に終わる。騒乱を鎮めるついでに、年末年始の家族主義/血縁主義に悩める者のいちサンプルにでもなるかと思いこうして書き始めたが、参考にも毒にも薬にもならない雑文となった。それで構わない。
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足の裏の血を洗いに、今年は海を見に行くことにした。
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削がれた実存に海を接いで、魂が雪がれることを祈る。